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【木暮祐一のモバイルウォッチ】第79回 訪日観光客の技適緩和問題に新たな解釈

2015-06-29 19:54:17
 本コラム第77回にて、今国会で成立した「電気通信事業法等の改正案」に伴い、この改正案に盛り込まれていた多岐な内容のうち、とくに「海外から持ち込まれる端末の利用に関する規定の整備」に着目し、総務省のブリーフィング内容や質疑を巡って知り得た情報をもとに記事を執筆させていただいた。

 その原稿の中で、筆者の見落としによる法改正の解釈違いがあり、総務省よりご指摘をいただいたので、ここで深くお詫びを申し上げるとともに、技適問題の緩和を巡る正しい解釈について、再度解説をしたい。

■「携帯電話等」と「Wi-Fi等」は別に考える必要があった

 今回の法改正は「電気通信事業法等の改正案」となっているが、電気通信事業法施行から30年を経た今年、大きく市場環境も変わった電気通信サービスに対応した内容にすべく、多岐に渡って法制度の見直しが行われている。

 その見直し範囲は広範で、電気通信事業法を主体としながら、関連する部分の電波法や放送法の一部まで見直しが行われている。総務省から国会に提出された法律の改正条文を記した「新旧対照条文」は86ページにも及んだものだ。

 筆者が注目していた、「海外から持ち込まれる端末の利用に関する規定の整備」に関連する部分で言えば、電波法が主体となると考えていた。

 現実に問題視されていたのが、訪日観光客等がわが国に持ち込んで利用するモバイル端末についてだ。わが国の従来の法律では、わが国で定められている技術基準への適合性が確認された適合表示無線設備(いわゆる「技適」があるもの)の利用が前提で、この適合表示がない端末においては違法無線局として取り扱われる懸念があった。

 訪日観光客等が使う端末の大半は日本の「技適」がない端末とみられ、それらを使うと違法となってしまう。また、来日観光客向けにフリーWi-Fi等の提供を考えている自治体等にとっても、その利用が違法となってしまっては大手を振って「どうぞお使いください」とは言えないわけで、わが国のフリーWi-Fi整備における課題ともなっていた。

 今回の法改正で筆者が注目していたのは、電波法第4条の項目追加だ(以下、引用)

電波法 第4条 (2項及び3項を追加)
2 本邦に入国する者が、自ら持ち込む無線設備(次章に定める技術基準に相当する技術基準として総務大臣が指定する技術基準に適合しているものに限る。)を使用して無線局(前項第三号の総務省令で定める無線局のうち、用途及び周波数を勘案して総務省令で定めるものに限る。)を開設しようとするときは、当該無線設備は、適合表示無線設備でない場合であつても、同号の規定の適用については、当該者の入国の日から同日以後九十日を超えない範囲内で総務省令で定める期間を経過する日までの間に限り、適合表示無線設備とみなす。この場合において、当該無線設備については、同章の規定は、適用しない。3 前項の規定による技術基準の指定は、告示をもつて行わなければならない。

 この条文を読む限り、「90日を超えない範囲内で総務省令で定める期間を経過する日」までの間であれば、わが国の技術基準に相当する技術基準に適合する無線設備(別章に記載があるが、欧州のCE等のマークがあるもの)についても、一定期間であれば利用可能になると理解していた。

 ところが、これはあくまでWi-Fi(総務省資料では「Wi-Fi端末等」と記載している)に限った話であったのである。

■「自ら持ち込む無線設備」という表現に注意

 今回の施策は、訪日観光客が自らWi-Fi端末等を日本国内に持ち込んで無線局として開設しようとする場合に、Wi-Fi端末等が我が国の技術基準に相当する技術基準に適合すると認められる場合(国際標準である、ITU-R M.1450-5等に適合しCEマーク等を取得しているなど)であれば、訪日観光客がわが国に入国して一定期間(90日以内で総務省令で定める期間)に限り、その利用を可能とするものだ。

 なお「自ら持ち込む無線設備」という表現にも注意しておきたい。持ち込まれた端末を他人が使う場合は適法とならないようだ。

 では、いわゆる3GやLTEといったモバイルネットワーク(総務省資料では「携帯電話端末等」と記載している)はどうなるのか。

 一見すると、Wi-Fiとほぼ同様なポンチ図が描かれているのだが、Wi-Fi(Wi-Fi端末等)のほうは「改正電波法4条」に関する解説となっている一方で、モバイルネットワーク(携帯電話端末等)のほうは「改正電波法103条の5」と記載されていた。

■国内で購入したSIMを「技適」のない端末で利用すると違法だったが…

 電波法103条の5といえば、国際ローミング受け入れに関する条文である。そのうえ、モバイルネットワークのほうの説明資料には、Wi-Fi端末等のほうにある「90日以内」という記載が見当たらない。

 「技適」のない端末は違法無線局とみなされると説明したが、3G以降の携帯電話はそのまま海外でも利用可能であるし、逆に海外で利用されている携帯電話もそのままわが国で利用することが可能である。

 これがいわゆる「国際ローミング」であるが、訪日観光客等の「技適」のない携帯電話を国内で合法的に利用するために設けられた条文が「電波法103条の5」で、第一号包括免許人(各キャリア)が携帯電話端末等の規格ごとに総務大臣に対して許可申請を行い、総務大臣の許可を受けた場合に、その包括免許の下に運用することが可能となっていた。

 ただし、あくまでも「国際ローミング」であって、訪日観光客等が自身の国で回線契約したSIMカードを使っての利用に限定されてきた。たとえば、訪日観光客がわが国の通信事業者のSIMカードを利用しようとすると、これは「国際ローミング」に当らなくなってしまうので、違法という扱いになる。

 すでに関西国際空港や東京・台場などに、訪日観光客向けのMVNOのプリペイドSIM自販機などが設置されているが、このSIMを「技適」のない端末で利用すれば、これは違法となってしまうのが現行法の解釈だった。

■3G、LTEの適法化は国際ローミングの拡大解釈で対応

 今回の施策では、外国から持ち込まれる携帯電話端末の無線局において「国際ローミングが可能なもの」であり、わが国の技術基準に相当する技術基準(国際標準であるITU-R勧告M.1457、M.2012に定める基準に適合しCEマーク等を取得しているなど)に適合していれば、国際ローミング以外にも、わが国の通信事業者の契約によるSIMカードでの利用が可能となることになった。

 あくまで第一号包括免許人が「総務大臣の許可を受けた上」で、ということになるが、改正法施行後は訪日観光客向けへのプリペイド等のSIMカードの提供などに関しても技適を意識する必要がなくなるのだ。

 要するにモバイルネットワークのほうは、国際ローミングの拡大解釈と考えるべきなのだろう。ということは、Wi-Fiのほうで規定されることになった「90日以内」という解釈は、こちらには適用されない。すなわち、来日観光客等に対応するための法改正ではあるのだが、モバイルネットワークのほうは期限の規定がないのだ。

 一方で、昨今は携帯電話機能のみの端末は少なく、大半がスマートフォンやタブレット端末であろう。これらの端末を海外から持ち込んだ場合、モバイルネットワーク(3G、LTE)については解釈上は利用可能な期限の制約はないが、これら端末にはWi-Fiも備えられているはずだ。Wi-Fiのほうは「90日以内」という制約が付くことを心しておきたい。

■あくまでも訪日観光客向けの施策である

 本コラム第77回でも記載したが、レクチャー後の質疑で筆者は「たとえば、日本人が海外旅行をした際に、海外でスマートフォン等を購入し、日本に帰国して国内で利用するといったシチュエーションも考えられる。この場合はどうなるのか。」という質問を投げさせていただいた。

 この質問に対し、本施策の電波法部分を担当された総務省総合通信基盤局電波部電波政策課政策係長の平林孝太氏が、「とくに国籍に関しては制約を設けていないが、あくまで今回の法改正は訪日観光客等のための緩和措置が主眼であることをお含みおきいただきたい」ということだった。

 総務省の関連資料を見ても、あくまで訪日観光客「等」という記載になっている。「観光」が目的ではなく、ビジネスでわが国に入国される外国人もいるであろう。

 そうしたわが国への入国者への配慮として見直しを行ったというのが今回の施策の主旨であり、国籍こそ限定はしていないので日本人が海外から持ち込んだ端末に関しても同等に適法と扱われることになるが、総務省としては「あくまで訪日観光客等が日本に滞在する短期間での利用が念頭に置かれており、原則として日本在住の方を対象とする施策ではない」という見解のようだ。
木暮祐一

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