アップルから約2年半ぶりに4インチのスマートフォンが本日31日、発売された。「iPhone SE」は女性に限らず、片手持ちで操作しやすいコンパクトなiPhoneを待ちわびていたという方に、どれぐらいおすすめできるスマホなのか、その実機をひと足早くお借りできたので、同じ4インチの「iPhone 5s」と比較しながらチェックしてみよう。
■デザインや使用感はほぼiPhone 5sのまま継承した
画面は4インチの大きさだけでなく、解像度も1,136×640ピクセルと同じ。本体の外形寸法にも変わりはなく、質量が1gだけiPhone SEの方が重いが、手に持ってその違いが気になる人はいないだろう。
外観のデザインは大枠そのまま変わらないが、サイドフレームと背面パネルのアルミ素材の触感が、ほんのわずかにザラッとしたように感じた。サイドフレームはエッジの部分がiPhone 5sは光沢仕上げだったが、iPhone SEではマットフィニッシュになっている。背面のアップルロゴは表面の鏡面仕上げに磨きがかかって、のぞき込むと自分の顔がはっきりと映る。ロゴの表面を指で撫でるとiPhone 5sの方が高さがフラットなのがわかる。もう一つとても些細な違いだが、背面パネルの下側に刻印されているモデル名は「iPhone」の文字がiPhone 5sが光沢に、iPhone SEがマットになっている。
各ボタンにイヤホン端子、Lightning端子、スピーカーとマイクの位置もiPhone 5sから変更なし。iPhone 5sの保護フィルムやケースがそのまま使えそうだ。
ストレージサイズは64GBと16GBの2機種に絞り込まれた。iPhone 5sにはあった32GBが今回は無くなっている。アップルのオンラインサイトで販売されているSIMフリーモデルの価格は16GBが52,800円(税別)、64GBモデルが64,800円(税別)。カラーバリエーションにはローズゴールドが加わって、ゴールド/シルバー/スペースグレイの全4色構成になる。ちなみに今回はSIMロックフリーの64GB、シルバーのモデルをハンドリングしている。
SIMカードスロットは本体正面に向かって右サイドにiPhone 5sと同じように配置されている。スロットのフタはパッケージに付属するSIMピンで開けて、nano SIMカードを装着する。Biglobe LTEのSIMカードで試してみたが、SIMカードを挿入してAPN構成プロファイルをインストールすればネットワーク設定がシンプルに完了する。テザリング(インターネット共有)も難なく使えた。なおiPhone SEではLTEの下り通信速度が最大150Mbpsに対応したほか、新たにVoLTEやTD-LTEもサポートする。ただしLTEのキャリアアグリゲーションには非対応だ。
筆者が使っているワイモバイルのSIMカードもiPhone SEで使えるか試した。同じようにAPNの構成プロファイルをインストールすれば通話とデータ通信ともに使うことができたが、4G LTEの回線表示はソフトバンクになった。そしてテザリングを使うためには、「ソフトバンクがオプションとして提供しているテザリングサービスの申込みが必要」になる旨を知らせるガイダンスページに飛ばされる。ワイモバイルを契約しているのに、ソフトバンクのテザリングオプションが使えるのか不明だ。ワイモバイルのSIMカードのユーザーでiPhone SEの導入を検討されている方は、詳細をキャリアに確認した方がよいかもしれない。
iPhone SEでは新たにNFCに対応した。そのメリットはアップルの決済サービス「Apple Pay」で活きてくるのだが、まだ日本未導入なので上陸の日を待つしか無さそうだ。Touch IDによる指紋認証センサーはiPhone 5sと同世代のものが採用されている。
■処理スピード、カメラ機能は進化を実感できた
CPUには64bitアーキテクチャー搭載の「A9」チップ、モーションコプロセッサー「M9」を、それぞれiPhone 6sと同様に盛り込んでいる。まさにiPhone 6sの処理性能を持つ4インチのiPhoneと言える。ベンチマークアプリでプロセッサーの処理性能を比べてみるとスコアに大きな差が付いた。
同一のWi-FiネットワークにつないでWebブラウザの表示速度を確認してみると、iPhone SEの方がやはりページの表示から埋め込み動画の再生までが素速い。VODの「dTV」、音楽配信の「AWA」を使ってみても、アプリを起動してからコンテンツを読み込んで再生するまでの時間はiPhone SEの方が短くストレスがない。この速さは、おそらくiPhone 5sからiPhone SEに買い換えた多くのユーザーが実感できると思う。
カメラ機能はメイン側であるiSightカメラの進化の幅が大きい。センサーの解像度がiPhone 5sの8MP(メガピクセル)から、iPhone SEでは12MPに飛躍した。撮影した写真の作例も本稿に載せてみるが、昼間の公園の水場で撮った写真では水飛沫のディティールがつぶれずに良く再現される。レンズの明るさはどちらもF2.2で一緒だが、夜景を撮ってみてもiPhone SEの方が輪郭部分の滲みが少なく、全体に精彩感が高い。iPhone 6sにも採用されている「Focus Pixel」技術が俊敏で正確なオートフォーカスを実現。セルフィ撮影時に便利な、メインディスプレイの発光をストロボ代わりにする「Retina Flash」や動画の4K撮影対応など、iPhone 5sから乗り換えれば便利さがすぐに感じられる機能が増えている。
ただし、センサーの解像度が少し上がるので動画や写真のデータはサイズはやや大きくなる。特に4K動画撮影は1件のファイルサイズが大きくなるため、内蔵ストレージが16GBのモデルだとすぐにiCloudの有料プログラムのお世話にならざるを得ない。今回テストで1分間夜景を撮った動画のファイルサイズは382MBにもなった。ここは少し頑張って64GBを選んでおくべきだと思う。
内蔵バッテリーについては詳しい容量が明らかではないものの、3G連続通話時間はiPhone 6sと同じ14時間を実現。同じく公称スペックでのインターネット利用時間はLTE、Wi-FiともにiPhone 6sを凌ぐ長さである点は頼もしい。今回は本稿執筆の間、Wi-Fiをしばらくの間オンにして、通話やWebブラウジング、動画再生をいつものようにに使っても、バッテリーが丸1日間以上持つことが確認ができた。
iPhone 5sからデザインがほとんど変わっていないので、新しいiPhoneを買った充実感や高揚感はいつもより少なめなのは否めないが、4インチの心地よいハンドリング感はそのまま継承しながら、要所の機能や使い勝手は確実にレベルアップしているので、程なくしてしっかりと満足感がやってくる。一度iPhone 6シリーズに移行してから戻る場合は、下世話な言い方だが、一度別れた恋人に再開してまた元の鞘に収まったような安心感も得られるだろう。iPhone 5sからの乗り換えは、少しでも変化が欲しいユーザーを中心にカラーバリエーションは特にローズゴールドの引き合いが強そうだ。価格的にも初めてのスマホ、あるいは初めてのSIMフリースマホを検討している方にも最適な選択肢だ。
協力:アップル・ジャパン
山本 敦