突然だが、皆さんは中国に行ったことがあるだろうか。
おそらく、行ったことがある方と行ったことがない方の間で評価がここまで大きく分かれる国は他にないのではないかと思う。行ったことのない方にとっては、メディアの影響からか社会主義の国であり、国内では自由がなく、コピー製品に溢れているという印象だろうか。もちろん地方都市ではそのようなエリアもまだ存在するだろうが、上海や北京に限って言えば、間違いなくその評価は正しくない。
実際、筆者は年に2~3度中国(北京または上海)に行く機会があるが、そこは日本でもなかなかないほどの高層ビル群であふれ、それでいて世界でも有数のIT先進国であると感じる。日本と同じアジアであるにも関わらず、その広大な国土も相まって、まるでアメリカのように感じられてしまうのである。
◆人々に浸透した「微信(WeChat)」
日本でメッセージングアプリと言えば、真っ先に「LINE」が思い浮かぶが、中国ではLINEが使えない。多くの方がご存じのように、「Google」や「Facebook」も閲覧できないし、Googleが展開しているサービス「Gmail」や「YouTube」ももちろん規制されている。
そんな状況にあって、中国で最もメジャーなメッセージングアプリといえば、「微信(WeChat)」だ。このアプリは中国の老若男女問わず、ほとんどの方が使っていると言っていいほどに浸透している。さらに、同アプリの使用領域はメッセージの送受信に限られない。
◆百貨店ではWeChat Payが必須
日本人が驚くのは、中国においては現金の授受がほとんどなくなってきているということだろう。
まず大きな額の現金を出せば、たとえコンビニでも偽札を疑われてチェッカーを通されるし、百貨店や大手スーパーのフードコートにいけば現金を受け付けていないケースもある。仮に現金が使える場所でも、嫌な顔をされるというのが実状だ。そこで活躍するのがWeChatのウォレット機能「WeChat Pay」である。
LINEが電子決済サービス「LINE Pay」を展開しているほか、日本でも最近は様々な決済サービスが登場しつつあるが、アリババ・グループが展開している「アリペイ」とWeChat Payが絶大な存在感を示している中国と比較すると雲泥の差がある状況だ。
◆気質が違う?新しいもの好きの中国人
しかし、日本と中国の電子決済サービスは、どうしてここまで差がついてしまったのだろうか。
ハード面の普及で言えば、そこまで障壁が高いわけではない。店舗POSの改修にはやや費用がかかるかもしれないが、現金の管理コストを考えれば、すぐに元が取れてしまうだろう。
筆者個人としては、そこには人々が「望む/望まざる」の問題があると思う。事実、日本では新しいものが生まれると、まず懐疑的な目が向く。「このサービスは大丈夫だろうか」「一回他人が使っているのを見てから検討しよう」など、すぐに取り入れようとはしない。
しかし、中国では違う。新しいサービスが登場すれば我先にと導入し、SNSで自慢する。近年の例で言えば、シェアサイクルの登場もそれに該当するだろう。都市圏ではこのところ色とりどりの自転車がたくさん路面に置かれている(日本人的に言えば放置されているが道路が広いから気にならない)。
中国では、日本の都市部ほど地下鉄が発達していない。一方で、交通渋滞が多い上に、タクシーは日本ほど簡単に捕まえられない。確実にオンタイムで人と会いたい場合は、最寄り駅から目的地まで向かう際にシェアサイクルを利用するのが実に便利だ。このシェアサイクルでも、先のWeChat Payやアリペイで支払うことが可能。シェアサイクルの隆盛はここ数年の話であるにも関わらず、利用者は若者だけではない。年齢を問わず、新しいものが便利であれば積極的に活用する、そういう人々の気質が今の中国のIT領域の進化を支えているのだと思う。
◆もはやアプリなしにタクシーを捕まえるのは至難の業
やや先述したが、中国の都市圏でタクシーを呼び止めるのは困難を極める。特に、雨の日となれば100%不可能と言っていいだろう。
そんな時に役立つのが「滴滴出行(通称:ディーディー)」と呼ばれる配車アプリだ。同様のアプリでは世界的に「Uber」が著名だが、中国では2016年に滴滴に買収されてしまったので、現状Uberというブランドは存在していない。
この滴滴だが、自前のアプリはもちろん、またもWeChatなどと連携。使い方はUberと全く同じで、自身の現在地と目的地を入力して電子決済で料金を支払うのみ。目的地を口頭で伝える必要がないのは実に便利だ。
◆半年後には別の国という感覚になっている中国
中国ではこうした様々な変化が、たった数年のうちに起きている。
日本では新しいものが海外から入ってくれば、規制で縛られることが多いが、中国では違う。新しいサービスや製品、制度(マイナールール)が次々と生まれ、人々はそれを享受する。一度も行ったことがない方には、ぜひ一度中国という国の現状を体験してみてほしいが、その自由さと明るさは日本にないものがある。自国がイノベーションが起きにくい土壌であるだけに、特にIT好きの方にとっては一度行くと癖になってしまうだろう。
Tsujimura