アップルが、今年6月の「WWDC2017」にてAR(拡張現実)アプリのための開発環境「ARKit」を発表・ローンチしたことで、いま多くのデベロッパがiPhoneやiPadなどiOS 11を搭載する端末で楽しめるARアプリを提供できる場が整ってきた。今回はオススメしたいARアプリと、入手できる方法をまとめてみた。
ARKitではiPhoneやiPadが端末に搭載するカメラとセンサーを使って空間認識をおこなう。そのため、従来のARシステムではカメラで撮影した空間の中にオブジェクトを表示するために必要としていたARマーカーを使わなくても、オブジェクトをより正確に、自由度も高く描画できるのが特徴だ。
ARKitによって製作されたコンテンツはApp Storeからダウンロードして、iOS 11以降を搭載するiPhoneやiPadであれば動かせる。つまり、6s/6s Plus以降のiPhone、iPad Pro、第5世代以降のiPadなど、「A9」チップ搭載後のiOSデバイスで楽しめる。筆者も今回紹介するARアプリをiPhone Xで試してみたが、最新の端末を使うとよりいっそうサクサクと動く。
iOSデバイスのほかにARアプリを楽しむためのハードウェアを別途追加する必要もないのがうれしい。「いま話題になってるARって、いったい何なんだ?」という方も、手もとに対応するiOSデバイスがあれば、まずはApp Storeを開いて以下に紹介するアプリを体験してみることが、ARへの理解を深める近道になるかもしれない。
■1時間後に迫る雨予報を視覚化できる「アメミル」
「アメミル」は島津ビジネスシステムズの気象予報士である有本淳吾氏がARKitをベースに開発した天気予報アプリだ。10月は季節外れの台風上陸が続いたこともまだ記憶に新しいが、天気予報よりも衛星写真が捉えた雨雲が接近する様子を視覚化できる「アメミル」の方を頼りにしていたという方も多いのでは。筆者も普段から当アプリを活用するユーザーだ。
降雨予報アプリ「アメミル」がARKitに対応。この先1時間以内に見舞われる雨情報をシミュレーションできる便利なAR機能が加わった
雨レーダーで住まいの10km範囲の詳細な降雨情報を調べられる
アメミルはユーザーの現在位置から半径10km以内、1時間前後のリアルタイム降雨情報を気象庁のアメダスから取得して、マップ上でチェックできるアプリだ。AR系ではふたつのユニークな機能を搭載している。ひとつは「雨レーダー」と連携して、iPhoneのカメラでキャプチャーした現実の景色に、これから予想される雨の状況をCGで重ねられる機能だ。雨降りの様子をシミュレーションしたARの画面を静止画でキャプチャしてツイッターでシェアすれば、家族や友人に雨降りへの備えを促すこともできそうだ。
シミュレーションのイメージは静止画でキャプチャしてツイッターでシェアできる
サテライトアイでは日本地図のCGを表示しながら雨降りの様子をリアルタイムにモニタリングできる
もうひとつは「サテライトアイ」というもので、日本の上空から捉えたマップのCGを見ながら、現在雨が降っているエリアを雲を割ってズームインするようなエフェクトを楽しみながら確認できる。
■体を動かしながら足し算を覚える「算数忍者AR」
デジタルグラフィクスの技術を駆使して現実では有り得ないオブジェクトを空間に描いたり、ARは脳の活性化も促進するエンターテイメントにもなる。実際にARKitのフレームワークを活用した文教系のARアプリも次々と生まれている。そのひとつがファンタムスティックが開発した「算数忍者AR」だ。
AR体験を楽しみながら算数を学べる「算数忍者AR」
算数忍者ARは子どもが楽しみながら算数を学べるように開発されたアプリだ。クイズ形式で出題される足し算の答えを持つキャラクターを、AR空間に描かれる忍者屋敷の中で探し当ててつかまえるゲーム形式のコンテンツが人気を博しているという。iOSデバイスの画面の中に描画される立体的なARオブジェクトは様々な角度からのぞき込むことができるので、子どもたちがデバイスを手にAR空間の中を動き回るような感覚で体を動かしながらキャラクターを探せる。さらに数学力も身につくというふたつの効果が同時に得られる。
ARオブジェクトの中に潜むキャラクターを見つけながら楽しく足し算を勉強できる
キャラクターカードを集めながら継続して学べる仕掛けも
算数の問題を10個クリアするともらえる40種類のカードを集めるイベントも、学習を続けるモチベーションになりそうだ。大人も意外と遊べるアプリなのでおすすめだ。
■引越に便利。間取りを計測できる「LIFULL HOME'S」
不動産・住宅情報サイトのLIFULL HOME'S(ライフルホームズ)を提供するLIFULLが開発したARシュミレーターは引越の時に役に立ちそうだ。アプリを立ち上げて、室内の床など平面部分にかざすとCGのメジャー(ものさし)が表れて、部屋の間取りが計測できる。イメージキャラクターのホームズくんもアプリの中に登場して機能の使い方をガイドしてくれる。
不動産・住宅情報サイト、ライフルホームズのイメージキャラクター「ホームズくん」もARアプリに登場する
部屋の間取りを、4隅にアンカーを打ちながら計測していく。ホームズくんが走り回る様子もキュートだ
計測した間取りは位置情報ごとにソートされる。データにメモやカメラで撮影した画像も添付しおけば、アプリ内で一括管理もできるので1日にまとめて何軒も物件を見て回るときに重宝する。
キャプチャした間取りデータ。実寸に近いデータが計測される
間取りデータに物件の写真やメモを追加。位置情報ごとにファイリングされる
■「RoomCo AR」でわが家に憧れの家具を置いてみよう
リビングスタイルが開発した「RoomCo(ルムコ) AR」は、家具のショッピングに役立つARシミュレーターだ。iPhoneをかざした場所に、買ってわが家の部屋に置いてみたい家具を“仮置き”して試せる。昨年の9月からARマーカーベースでのARシミュレーター機能は実現していたが、今年の9月からはARKitに対応してますます手軽に使えるようになった。
家具のシミュレーターアプリ「RoomCo AR」
アプリには3つの特徴がある。ひとつはカタログに収録された22ブランド・約30万点の家具をAR空間の中に3Dオブジェクトとしてほぼ実寸大で配置できること。手軽に試着できる服や靴と違って、家具はわが家に借りて置いてみることが容易にできなかったので、ARテクノロジーとの相性がとても良かったのだと、アプリの開発に目を付けたリビングスタイルの代表取締役 坂本尊志氏がコメントしている。
22ブランド・約30万の家具データから検索できる
ふたつめの特徴は膨大な家具のカタログデータから、家具の種類や用途、ブランドなどの条件を指定して素速くかんたんに検索できる機能を用意したこと。そして最後の特徴は、シミュレーションして気に入った家具を、ルムコアプリにつながっている各ブランドのECサイトから購入できる仕組みが整っていることだ。
リアルな家具のCGデータを配置できるのでショッピングの参考になる
模様や色の異なるバリエーションも試せる
ARKitはARマーカーを必要としないので、空間の中にいくつもの家具データを自由に“置きまくれる”のが楽しい。アプリを目一杯楽しんでいるうちに、本気で新しいソファを買いたくなってきた。
■ゲーム感覚で“座りすぎ”を解消できる「Standland」
Flask LLPが開発する「Standland」はいわゆる“座りすぎ”の状態を解消できる、ゲーム感覚で健康増進にチャレンジできるアプリだ。Apple Watchにも対応する定番アプリなので、既に活用している方もいると思う。筆者も原稿を書くときにはいつも座りっぱなしになりがちなので、このアプリを頼りにしている。
ゲーム感覚で健康増進が図れるStandland
アプリの内容はとてもシンプルで、1日24時間のうち、1時間に1回スタンディングするとミッション成功。一定期間のうちに、または一定回数以上の目標をクリアすればかわいいキャラクターが手に入る。キャラクターを集めていくと、知らないうちに健康が維持できているという嬉しいアプリだ。
目標を設定して沢山のキャラクターをゲットしていく
今年の秋ごろからStandlandには、カメラでキャプチャしている風景に獲得したキャラクターなどCGのオブジェクトを並べて楽しめるゲーム的なAR機能が追加された。キャラを並べた様子もまたキャプチャしてシェアできる。12月には期間限定のキャラクター「旅のサンタ」も登場するので、この機会に簡単なスタンディング・エクササイズをはじめてみてはいかがだろうか。
キャラクターをAR空間の中に配置
自慢のキャラクターたちを並べた様子をキャプチャして画像をシェアできる
iOS11からApp Storeのデザインと機能がリニューアルされたことは既に多くのiPhoneユーザーがご存知だと思う。アプリの画面下側に並ぶ5つのタブから「Today」を開くと、毎日アップルの専任エディタがキュレーションしたおすすめアプリが見つかる。人気のiPhone対応モバイルゲームも、新たに独立して設けられた「ゲーム」のタブの中でより手軽に探せるようになった。個別のゲームアプリの画面を開くと、複数の動画プレビューやユーザーのクチコミコメント、App Storeの「スタッフメモ」もチェックできる。欲しいアプリの内容を深掘りできて便利だ。
今回紹介したアプリは「検索」タブに直接名前を入れて探してもらうのが最も簡単な近道だが、ほかにも続々と増えているARアプリがある。「App」タブから「AR App」カテゴリの中に本稿で紹介しきれなかったものが数多く並んでいるので、こちらも探してみてほしい。
※Face ID、前から見るか、横から見るか
山本 敦