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オーケストラの中心で、クラシック愛をさけぶ!東京交響楽団はなぜVRアプリを作ったのか?

2018-03-05 18:32:20
 「オーケストラのド真ん中でクラシックの演奏を聞けたら、どんなに素晴らしいだろうか」―――。そんな妄想がついに実現する。東京交響楽団が、VR(仮想現実)を活用した動画コンテンツを楽しめるアプリを作成したのだ。専用のゴーグルを装着すれば、約70名のプロオーケストラの中心で演奏を楽しめる趣向。どのような経緯で開発が進められたのだろうか?

「VRオーケストラ~東京交響楽団~」から。5箇所のカメラ位置から360度の映像を楽しめる。写真は客席からのアングル

クラシック好きにはたまらない
 東京交響楽団が提供する「VRオーケストラ~東京交響楽団~」は、実際の演奏を全天球カメラで撮影したもの。視聴者は、5箇所のカメラ位置(指揮者 / 第1ヴァイオリン奏者と第2ヴァイオリン奏者の間 / ヴィオラ奏者とチェロ奏者の間 / 打楽器奏者 / 客席)を移動しつつ、各箇所で360度の映像を楽しめる。筆者も楽団事務所にて体験させてもらったので、まずはそのファーストインプレッションからお伝えする。

なんとも気分の良い、指揮者のアングル。思わず指揮棒を振り回したくなる

 なるほど指揮台から見る景色は壮観だった。自分を取り囲む弦楽器奏者たち。団員とアイコンタクトをとりながら、良い気分で指揮棒を振り回したくなる。弓の動きが揃っており、見た目にも美しい。次にヴァイオリン奏者の間に置かれたカメラに移動。すると、ヴァイオリンの音が大きくなり臨場感が増した。心憎い演出だ。前後左右には、懸命にメロディを奏でるヴァイオリン奏者たちの姿。次第に、自分もパートの一員になった気がしてくる。

ヴァイオリン奏者の間に置かれたカメラから。前後左右、どこを向いても演奏に集中している団員の姿がある

 次にチェロとヴィオラの間に移動した。すると中・低弦の響きが大きくなる。楽器が変われば出る音の高さが変わり、担当する旋律も変わる。当たり前のことだけれど、クラシック音楽はそうやってつくられているのだ。いま正に音楽がつくり出されている現場に立ち会っている幸せを感じる。

左を向けばヴィオラ奏者、右を向けばチェロ奏者。ここでは聞こえてくる音色も、ズシリとした中低音に変わる

 最後に移動した打楽器の位置は、オーケストラの最後尾だった。思っていたよりも、ずっと遠くに指揮者が見える。打楽器奏者は、どうしても生じてしまう"時差"を計算したうえで、ここでティンパニやシンバルを鳴らしているのだ。見上げれば、ミューザ川崎シンフォニーホールの螺旋構造の客席が目に入る。「普段は、あの席からステージを見ているのだな」などと物思いにふけっていると、華々しくオペラの序曲がフィナーレを迎えた。

打楽器と指揮者までは、相当な距離がある。打楽器奏者は、この時差を考慮して楽器を叩いている

 演奏者の目線に立ってみて、はじめて気が付くことも多かった。クラシック好きにはたまらない体験になるだろう。ちなみに動画コンテンツには、ビゼーのカルメン組曲から「前奏曲」(約1分半)と、モーツァルトの歌劇 フィガロの結婚から「序曲」(約5分)の2本が用意されている。指揮は同楽団 名誉客演指揮者の大友直人氏。東京交響楽団の64名の演奏者が撮影に協力している。

プロオケの技術に脱帽
 公益財団法人 東京交響楽団の営業本部 課長の長久保宏太朗氏に話を聞いた。

 映像はGoProで撮影したという。2台を背中合わせにして撮影したのち、精緻に合成しているとの話(映像に継ぎ目は確認できなかった)。音声は会場のマイクで録っている。カメラの立つ位置によって近くのパートの音が大きくなるよう、後からチューニングしたようだ。カメラの設置場所については悩んだが、動きの大きな弦楽器セクションの間に置くことに決めた。カメラが小さくて済んだので、団員も違和感なく演奏できたという。

「日本のプロオーケストラとしては初となるVRアプリの制作に取り掛かりました」と語る、公益財団法人 東京交響楽団の営業本部 課長の長久保宏太朗氏

 動画を見ていて、ふと不思議なことに気が付いた。他のカメラがまったく映っていないのだ。これについて聞くと「実は5回、本番を撮影しました」と長久保氏。なんと、同じテンポで演奏した5本の動画をつくり、それを1本のコンテンツにまとめているという。たしかに、オーケストラの各所にカメラが設置されている映像には違和感がある。それを解消するため、寸分たがわぬ正確な演奏を5回(×2曲)こなしたとのこと。さすがプロオーケストラである。

ハンディキャップを持つ人や音楽に縁遠い人がコンサートに足を運ぶきっかけに
 そもそも、VRアプリを制作したきっかけは何だったのだろう。ついエンタメの目的で開発されたものとばかり思っていたが、長久保氏によれば「地域貢献」や「福祉事業」の意味合いも強いとのこと。

 文化庁では平成29年度 戦略的芸術文化創造推進事業として《フランチャイズ・オーケストラを中心とした市民のクオリティ・オブ・ライフの調査と向上のための事業》を進めている。この取り組みに際して、楽団ではVRアプリで何かできないか考えたという。

 たとえばハンディキャップを持つ方は、オーケストラの演奏会に出かけるチャンスも少ない。そこでVRアプリを通じて、まずはコンサートの魅力に触れてもらう機会をつくった。実際、福祉施設に持っていったところ、大変好評だったようだ。また東京交響楽団では、これまでも未就学児のためのコンサートを積極的に開催してきた。その前段階としてVRアプリの活用を考えている。「コンサートの前に予習できるわけですね。まずは映像で興味を持っていただき、後にコンサートホールで生のオーケストラで確認してもらう」と長久保氏。

VRビューワーにスマートフォンをセットすれば、VRコンテンツが楽しめる。何処にでも持っていける、この手軽さも魅力のひとつだ

 レギュラーの定期演奏会のほかに「0歳からのオーケストラ」「こども定期演奏会」といった親子で楽しめるコンサートも開催している東京交響楽団。3月7日には、ハンディキャップのある方のために"体感音響システム席"を用意した「ファンタスティック・オーケストラ~みんなで集えるコンサート~」を開催する。

 実は本稿で紹介した「VRオーケストラ~東京交響楽団~」も、3月7日に演奏会場のロビーで初披露する予定だ。「開演1時間前にロビーに10台をご用意します。小さなお子さんにも負担がないよう3Dの度合いを弱めに調整するほか、小学生未満(4歳以上)のお子さんでも楽しめる単眼で視聴できるセットも用意します」(長久保氏)。

 「以前からVRコンテンツ制作の構想は温めていたものの、これまでは予算面でクリアできなかった」と同氏。それが昨今のスマートフォンの機能向上により、スマホアプリとして完成させることができたという。楽団では今後、コンテンツの数を増やしていくことも視野に入れている。そこで気になるのはApp Store、Google Playでの展開予定。しかし「それについては消極的なんです」と長久保氏は苦笑いする。スマートフォンはモデルによって性能の差が大きく、うまく動かないケースが頻発する恐れもある。それを懸念してのことだった。

 当面は、東京交響楽団が開催するコンサートに足を運び、ロビーで体験するしかなさそうだ。なお演奏会によってはコンテンツを準備できないこともあるという。気になる方は、楽団まで問い合わせて欲しい。

東京交響楽団の本拠地、ミューザ川崎シンフォニーホールと周辺の様子
近藤謙太郎

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