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【木暮祐一のモバイルウォッチ】第76回 来日旅行者向け「技適」問題が解決……電波法一部改正が国会で成立

2015-05-22 12:18:41
 先週末、現在会期中の第189回国会で審議されていた「電気通信事業法等の一部を改正する法律案」が衆議院、参議院共に可決され、成立した。

 この改正案の内容は、光回線の卸売サービス等に関する制度整備や、携帯電話網の接続ルールの充実、電気通信事業の登録の更新制の導入等(合併・株式取得等の審査)など「電気通信事業の公正な競争の促進」に関する内容や、書面の交付・初期契約解除制度の導入、不実告知・勧誘継続行為の禁止等、代理店に対する指導等の措置など「電気通信サービス・有料放送サービスの利用者・受信者の保護」に関する内容のほか、電波法関係の規定の整備、特に「海外から持ち込まれる無線設備の利用に関する規定の整備、等」が含まれている。

 これらの内容のうち、一番最後に記した「海外から持ち込まれる無線設備の利用に関する規定の整備、等」に関して、筆者はその成立に関して大変関心を抱いていた。いわゆる海外からの持ち込み端末に関する「技適」をめぐる内容についての改正部分である。

■「技適」の無い海外端末を国内で利用することは違法

 日本で利用される電波を発する通信機器は、日本の電波基準を満たしている証明となる「技適」が必要となる。携帯電話や、Wi-Fi、Bluetooth機器などもこの法律が適用され、「技適」が無い端末を国内で利用した場合電波法違反となり「懲役1年以下、もしくは100万円以下の罰金」に処される場合がある。

 第3世代(3G)以降の携帯電話では国際ローミングの対応により、日本で販売された端末をそのまま海外でも利用できる環境が実現されたと同時に、海外で販売されている端末がそのまま日本でも通信できるという状況が生まれた。

 これにより海外からの来日旅行者が海外端末を日本国内で使用するというシチュエーションが発生するようになったわけだが、当然、海外で販売された携帯電話のすべてに「技適」マークがあるとは限らない。

 このため、こうした来日旅行者向けの緩和措置として「電波法103条の5」が定められ、国内の通信事業者があらかじめ総務大臣の許可を受けることで国際ローミングとして受入する場合に限り「合法」とさせた。

 しかしながら、スマートフォンの時代となり、かつグローバルモデルが主流となった現在、海外からスマートフォンを並行輸入するようなケースも出てきた。さらには、来日旅行者が国際ローミングでモバイルネットワークを利用する分には違法にならないが、日本の通信事業者のSIMカードを挿入して利用した場合は国際ローミングとはならず、その端末に「技適」がなければ違法となってしまう。さらに、Wi-FiやBluetoothを利用する場合も想定され、これらの通信を利用する際の抜け道はこれまで無かった。

 その一方で、総務省は「2020年に向け増加していくであろう来日観光客の日本国内での通信機器の利便性向上を図る」必要があるとして、2014年6月には来日観光客に先進的なICT環境を提供するためのアクションプラン「SAQ2(サクサク) JAPAN Project」を公表するなど、観光地における「無料Wi-Fiの整備促進と利用円滑化」や、「国内発行SIMへの差替え等によるスマートフォン・携帯電話利用の円滑化」などを実現させていくとして、来日旅行者向けの通信サービスの提供を充実させる方針を打ち出してきた。

 実際にこれを受けて、世界的に知られる観光地を抱える自治体では積極的に無料Wi-Fiを整備したり、あるいは関西国際空港や東京・台場などに来日観光客向けのMVNO SIMの自販機が設置されるなど、各所で来日旅行者向けのサービス拡充が行われている。電波法における「技適」の問題がある一方で、打ち出されているサービスに矛盾が生じている状況にあったのだ。

■今回の法改正内容は来日旅行者に限定

 今回、国会で審議された「電気通信事業法等の一部を改正する法律案」の中で、この海外端末の持ち込みをめぐる「技適」問題に関する部分の改正内容を見てみたい。

 この改正案には、電気通信事業法のほか、関連する電波法や放送法の見直しも行われている。「技適」をめぐる電波法改正部分に着目すると、無線局の開設に関わる基本事項が定められている電波法第四条に、新たに次の2項が追加された(以下、引用)。


電波法 第4条 (2項及び3項を追加)
2 本邦に入国する者が、自ら持ち込む無線設備(次章に定める技術基準に相当する技術基準として総務大臣が指定する技術基準に適合しているものに限る。)を使用して無線局(前項第三号の総務省令で定める無線局のうち、用途及び周波数を勘案して総務省令で定めるものに限る。)を開設しようとするときは、当該無線設備は、適合表示無線設備でない場合であつても、同号の規定の適用については、当該者の入国の日から同日以後九十日を超えない範囲内で総務省令で定める期間を経過する日までの間に限り、適合表示無線設備とみなす。この場合において、当該無線設備については、同章の規定は、適用しない。
3 前項の規定による技術基準の指定は、告示をもつて行わなければならない。


 すなわち、日本に来日する渡航者(本邦に入国する者)に限って、その渡航者が国内に持ち込んだ端末は、総務省令で定められた期間(90日を超えない範囲内で総務省令で定める)を経過する日までの間に限って、「技適」がある端末と同等にみなす、ということである。これによって、総務省が推進している「2020年に向け増加していくであろう来日観光客の日本国内での通信機器の利便性向上を図る」ために必要な法整備が整ったことになる。

 この条文から読み取れるように、あくまで日本への一時滞在者が対象となっている。たとえば、日本人が海外で技適の無いスマートフォンを購入し、国内に持ち帰るケースや、海外通販等を通じて入手した「技適」の無い端末の国内使用は、依然として電波法違反になってしまう。あくまで来日旅行者向けの緩和措置という内容にとどまっているのである。

 さらに、こんな条文も追加され、国内におけるスマートフォン等の端末販売事業者についても言及している(以下、引用)。


(基準不適合設備に関する勧告等)
第百二条の十一 無線設備の製造業者、輸入業者又は販売業者は、無線通信の秩序の維持に資するため、第三章に定める技術基準に適合しない無線設備を製造し、輸入し、又は販売することのないように努めなければならない。


 すなわち輸入業者や販売業者に対して、「技適」の無い端末は販売してはいけないという戒めが追加された。現状は努力義務にとどまってはいるが。

 世界では、一般的に自国で販売する端末は、自国の法令に適合した端末を販売するのが筋であり、こうした電波に絡む法律の多くは利用する個人よりも販売事業者に対する罰則が定められているケースが多い。

 しかしながら、わが国では、これまで販売には規制はなく、利用するユーザーが罰せられるという状況にあった。わが国の場合、携帯電話やスマートフォンの販売は通信事業者が代理店を通じて回線契約と共に販売するのがいわば“常識”であったので、技適の無い端末を販売するという想定が無かったのであろう。

 同時に、「技適」が無い端末を使ってはいけないとしたこの法律は、言ってみれば通信事業者が販売する以外の端末を排除したいという意図も感じてしまう。今回「技適」に関して、来日旅行者向けには法規制が緩和されたことになるが、残念ながら日本在住のユーザーにはメリットの薄い内容にとどまってしまった。

 通信事業者のビジネスや、国内メーカー、国内向けに端末を供給するメーカーを保護するという観点からは当然の措置と言えるが、たとえばコンテンツやサービスを開発したいという企業やエンジニアが、国内未発売のスマートフォンやウェアラブル端末を「検証」や「研究」を目的に利用したいといったニーズはあるはず。こうした開発者や研究者等のニーズが盛り込まれなかったのが少々残念である。
木暮祐一

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