弥生は7日、都内で記者発表会を開催し、法人向けクラウド会計ソフト「弥生会計 オンライン」の提供を同日から開始すると発表した。
これは同社の「弥生」シリーズの新ラインナップとなるもの。デスクトップアプリ「弥生会計」と連携することで、新たなソリューションを提供するという。具体的にはオンライン版の入力データを、デスクトップ版の「弥生会計AE」へと自動で反映。2016年3月には相互同期に対応し、会計事務所では顧問先が「弥生会計 オンライン」を利用している場合でも、月次監査や決算業務を従来と同じデスクトップ版で行えるようになる。
■クラウド化と作業の自動化で新規ユーザーを取り込む
記者発表会では代表取締役の岡本浩一郎氏から、まずは同社のクラウド戦略についての説明があった。これによると、弥生では岡本氏が就任した2008年に「弥生 as a Service」宣言を発表。以降、SaaSに向けてさまざまな取り組みを行ってきたという。
「想定よりも時間はかかったが、着実にクラウド戦略は前進しています。我々はクラウドについて2つのアプローチを考えており、そのうちの一つがクラウドアプリの提供です。これについては、昨年1月に『弥生オンライン』として『やよいの白色申告 オンライン』と『やよいの青色申告 オンライン』をローンチしました。2015年6月の時点で、登録ユーザー数は5万人弱を数え、そのうち有償プランの利用者が3万789人。今年の確定申告で実際に書類を作成したユーザー数は1万6009人に及んでいます」
これら両アプリによって、弥生はクラウド会計ソフトにおけるトップシェアを確立している。しかし、その一方で、会計ソフト全体におけるクラウドアプリの割合は7.7%とまだまだ少数派にすぎない。それどころか、個人事業主の市場においては、会計ソフトの普及自体がまだまだ発展途上というのが現状だという。
「現在、個人事業者の中で会計ソフトをご利用いただいているのは1/3程度。それ以外のお客様は、会計事務所に業務を委託しています。しかし、これでは月次監査でしか経営状況を把握できず、事業に大きなリスクを抱えることになります」
とはいえ、個人事業者が会計ソフトを利用して自計化するとなると、時間と労力、そして会計知識が必要となる。そのため、記帳作業の負荷とタイムリーな経営情報の把握。この両者はこれまでトレードオフの関係にあったと岡本氏は話している。
こうした前提を踏まえたうえで、弥生がクラウド連携のもうひとつのアプローチとして進めているのが、デスクトップアプリのクラウド化だ。2013年10月にはクラウドを通じ、データのバックアップや共有を行う「弥生ドライブ」をリリース。さらに、2014年7月には、クラウド経由で外部データの取込、自動仕訳を行う「YAYOI SMART CONNECT」を提供している。
■領収書の情報をスキャン取り込み
こうしたクラウド連携の新たな形として、「弥生会計オンライン」では、同社の会計ソフト「弥生会計」の機能をオンラインで提供していく。既存の会計ソフトの利用ユーザーにプラスアルファの利便性を提案するとともに、会計ソフトを利用したことのないユーザーに対して、より手軽なアプリとして提供するのが狙いだ。
その基本機能の一つが「スマート取引取込」だ。これは、「やよいの青色申告 オンライン」などでも利用されており、銀行取引やクレジット決済などの外部データを自動仕訳するもの。現状はCSVファイル形式となっている法人銀行口座からの取り込みを、2015年10月には自動化するほか、「まとめ仕訳」にも対応。交通費など1日に複数発生する取引が一まとめに表示されるため、他の重要度の高い情報が見えやすくなるという。
「そして、2015年12月に、スマート取引取込はOCR処理に対応します。これは我々にとって長年の夢でしたが、2016年1月1日の電子帳簿保存法の緩和によってようやく実現しました。もちろん、法改正の保存要件にも対応しています」
これによって、ユーザーは領収書や請求書といった証憑を元に、取引データを手入力する手間から解放されることになる。スキャナーやスマートデバイスで読み込むだけで、取引データを自動で生成。それが、仕訳データに自動で変換され、証憑は電子化された上で保存される。
その他では登録情報を元にした帳簿の自動作成にも対応。2015年10月には決算書の自動作成に対応する予定で、会計事務所とのデータ連携も可能とした。クラウドなので、WindowsやMacといった環境を問わないメリットもある。
■科目登録の悩みを解決
なお、会場では「弥生会計 オンライン」のデモが行われた。まずは、使用にあたって初期設定の画面が表示されたが、今回はサービスの利便性をすぐ実感してもらうため、この画面は一旦飛ばせるような操作も用意されているという。
スマート取引取込については、インターネットバンキングからダウンロードしたCSVファイルをもとに、取引の仕訳が行われた。ブラウザに表示した「弥生会計オンライン」にファイルをドラッグ&ドロップ。プレビューが表示されるので、後は取り込み操作を行うだけで、仕訳データに登録された。
一方、取引を手入力する場合には、「かんたん取引入力」を利用することになる。入力画面から科目のリストを呼び出すと、各科目の説明を横に表示。簿記や会計の知識がなくても、迷わずに指定できるようになっている。
また、「よく使う取引」というボタンも用意されており、クリックすると検索ボックスを表示。「プリンター」と入力すると、「プリンターの購入」として、科目に「消耗品費」と自動で表示された。なお、プリンタは10万円を超えると固定資産となるが、その確認についても後に行ってくれるという。
最後に「科目別損益レポート」のデモでは、経費が月単位などでグラフに表示された。これによって、ユーザーは目立って損益が多い項目などがあれば、視覚的に判断できるようになる。気になる項目があればクリックすることで、その明細を表示することも可能だ。
■月額2万6,000円から。2カ月の無料試用も
「弥生会計 オンライン」は、年間料金プランでの提供となっており、全機能が利用可能な「セルフプラン」が2万6000円。さらに、電話やメールでのサポートに対応した「ベーシックプラン」が3万円となっている。このうちベーシックプランでは、キャンペーンとして仕訳相談、消費税改正業務相談、経理業務相談などにも対応するとのことだ。
なお、無料体験プランも用意されており、最大2カ月までは全機能の試用が可能。その他、起業家や弥生PAP会員の顧問先を対象としたキャンペーンも用意しており、それぞれベーシックプランまでの初年度の利用料金が無料となる。
飛田九十九