ソフトバンク・テクノロジー(以下、SBT)は6日、都内で法人向けイベント「Softbank Technology Forum 2015」を開催した。IT業界の現状と将来像を示す基調講演のほか、「クラウド」「セキュリティ」「デジタルマーケティング」「トレンド」の4カテゴリーごとに計16のセッションが行われた。
このセッションには、ソフトバンクグループ各社のほか同グループと連携する多彩な企業の代表が登壇して、インフラからソリューション、サービスにいたる最新の取り組みなどが発表された。
■デジタルマーケティングを変革するリアルタイム連携サービス
同イベントの今年のテーマは「Challenge for new age~テクノロジーによる、新時代への挑戦。」。ここでは、デジタルマーケティングのカテゴリーで、同日リリース発表された「Emotion i」に関するセッションについて紹介する。
登壇したのはSBTのデータソリューション本部 コンサルティング部シニアコンサルタント澤本陽介氏と、共同事業のパートナーであるEmotion Intelligence(以下、emin)の音田康一郎氏。まず澤本氏より、両社の共同事業の第1弾となる「Emotion i」の概要について説明があった。
SBTはこれまで、デジタルマーケティングの分野で10年以上にわたって200社超へのウェブコンサルティングおよび分析サービスを提供してきた実績を持つ。「SIGNAL」と名づけたプラットフォームを有しており、ここに人工知能による機械学習を応用したeminの「Emotion I/O」を融合することで世界初のリアルタイム連携サービスを提供していくという。
「ECサイトなどにおけるデジタルマーケティングの分野では現在、人工知能や機械学習だけではエンドユーザーがサービスや商品を購入したり、再度リピーターとして利用してもらう確率の精度を高めるのが難しい課題があります。多くの企業が専任のマーケターや分析担当者を置いています。KPIを達成できるかどうかという予測は、こうしたスタッフによる分析や仮設に基づいているのが現状です。『Emotion i』の導入で、インテンション型のデジタルマーケティングが可能になり、リソースをより重要な戦略立案や実行、分析、改善といったコア業務に集中させることが可能になると考えます」(澤本氏)
■ECビジネスのコンバージョン率をいかに高められるか
次いでeminの音田氏が登壇し、「Emotion i」実現のコア機能となる「Emotion I/O」開発の背景とこれまでの経緯について語った。あらゆるオウンドメディアにおいて、0.03秒ごとに行動データをトラッキング。マウスの動きやフリック、タップをはじめページ遷移などから繰り返しデータを収集して人工知能が学習することでエンドユーザーがその瞬間に抱いている感情をリアルタイムで抽出する仕組みだという。
「ECサイトにおいてはCVR(コンバージョン率)をいかに高めるかが課題ですが、サイトにアクセスしたエンドユーザーがどのくらいの購入意欲をもっているのかをリアルタイムで把握して、決断をひと押しするクーポンの発行などのアクションが必要です。『Emotion I/O』を応用した『ZenClerk』というサービスがすでにありますが、これにSBTの『SIGNAL』を融合することで飛躍的にCVRが高まるサービスにしたのが『Emotion i』です。単に特定の商品や価格を閲覧しているといったエンドユーザーの行動ではなくて、カーソルが価格とレビューとの間を行き来している、ほかの商品もたびたび閲覧しているといった動きをキャッチして“購買意欲”が高まっているのか、なくしつつあるのかまでを把握します」(音田氏)
こうしたエンドユーザーの行動を“感情データ”として収集・蓄積するだけでなく、アクセス解析ツールとしてCVRの向上へと結びつけるのが「Emotion i」だ。不特定多数を対象にしている以上、特定のECサイトにアクセスしたすべてのユーザーが「良い経験」と感じているわけではない。なかには「悪い経験」と捉えているユーザーも存在する。「Emotion i」を活用することで、こうした「良い経験」の感情を“見える化”することができ、「悪い経験」のサイクルをよりよいUXへと改善するヒントを見い出すことも可能だという。
「ページ遷移やカーソルの動きから購入意欲、購入確率をリアルタイムで把握していますので、たとえば購入意欲が10%下がったら割引クーポンを提示するといったタイムリーなマーケティング施策も可能になります。こうした施策を重ねていけば、、ECサイトの運営やデジタルマーケティングが大きく変わっていくと考えています」(音田氏)
SBTの10年以上にわたる実績に、eminの高度なテクノロジーが融合した「Emotion i」は、「Attention(注意喚起のマーケティング)」から「Intension(意思のマーケティング)」へと、エンドユーザーが主体のデジタルマーケティングを可能にするツールの1つと言えるだろう。日々、収集・蓄積されていく膨大なデータをどうビジネスのイノベーションへと反映させていくかを具体的に提示したプレゼンテーションとなった。
浦野孝嗣