ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンク)は18日、英半導体設計大手のARM Holdings plc(以下、ARM)を買収した。
これに伴い、ソフトバンクの孫正義社長は、同日18時20分頃(日本時間)からロンドンで記者会見を開き、その経緯や今後の目標などに関して説明している。同発表会の模様は、ライブ配信された。
■今回の取引概要について
ソフトバンクの孫社長は冒頭、買収することとなったARMについて、「(ARMには)10年以上前から注目してきた会社。技術的な将来性などから、ぜひグループの一員になってほしいと思っていた」と語った。
すでにプレスリリースで明かされていることではあったが、今回の取引に関する概要についても改めて説明。ARMの発行済株式および発行予定株式のすべてを、243億ポンド(約3.3兆円)で取得することがすでに決まっており、資金については、保有キャッシュフローおよびアリババやスーパーセル株の売却資金、みずほ銀行からの借り入れなどから充当する。今後のスケジュールについて、明言は避けたが、予定されているのは典型的なスケジュールであり、それほど長くかからないだろうとしている。
会見では、ARMのStuart Chamber CEOとは2週間ほど前に会ったばかりであり、非常に短期間で決まった買収劇であることも明かされた。
なお、ソフトバンクにARMと関連する事業がないことから見ても分かる通り、本買収は非常に前向きな投資であることも語った。
■ARM買収の目的とは?
孫社長は、今回のARM買収の目的について、ARMが半導体市場においてマーケットリーダーとして君臨していること、そして何よりも、IoT分野が今後、グローバルで非常に大きな可能性を秘めているからであるとした。
ARMはモバイルコンピューター(ラップトップを含む)市場において85%以上、スマートフォン市場においては95%以上と非常に大きなシェアを持つ(※他社によるARMデザインのチップの出荷を含む)。スマートフォンのコア数が増大し、グラフィックが重視されていけば、ARMの重要性はさらに増していく。
また、モノが次々とインターネットにつながっていくなかで、セキュリティは懸念事項の1つ。多くのユーザーが、スマートフォンなどに搭載された基本ソフトはアップデートを行うが、Wi-Fiルーターやプリンター、コピー機のアップデートを行うのは少数派だ。悪意のある人物が、ハッキングをしようと企てた場合、(IoT分野の成長を考えれば)今後すべての「モノ」がセキュリティリスクの対象となる。ARMはトラストゾーンと呼ばれる技術を保有しており、今後セキュリティ分野において、これがキーコンテンツとなることが予想される。
■どうして英市場が不透明な今、買収に至ったのか
EU離脱などで揺れている英国。どうして英企業であるARMをこのタイミングで買収することに決めたのだろうか。その理由について、孫社長は、(そうした不安を超えた)大きなパラダイムシフトが起きると感じたからであると説明した。
孫社長は、「投資については、常にパラダイムシフトが起こる直前のタイミングを狙っている。今回の買収についても同じで、今後間違いなく、自動車や家電分野などにおいて、IoT分野が注目されていく。モバイルの次の大きなパラダイム・シフトはIoTになる」と話している。
また、米スプリントの回復に自信を得たことも大きな決断の理由となったようだ。しばしば、同社の買収については批判的な見方がされるが、孫社長は、すでに同社の回復に自信を持っているとしている。ARM買収案件はソフトバンクの投資において、過去最大の投資となるが、スプリントの回復に自信を持てなければ、あり得なかったと説明した。
■ARMとの未来
孫社長はARMとの未来について、同社の自立性を維持したまま、エンジニアに投資を続け、5年間で従業員を倍増し、IoT分野におけるパラダイムシフトを牽引していきたいと述べた。
ソフトバンクはすでに、日本およびアメリカでモバイル事業を展開しており、他事業ではアリババを支援するなどしている。提携/支援先では優秀なリーダーを多く抱えており、それぞれの自立性を尊重しているので、ARMについても同様に、自立性を維持したいと語っている。
また、ARMは2015年実績で150億個以上のチップを出荷しており、今後もその規模は継続的に成長していくと予想されている。ARMのチップはスマートフォンだけでなく、すでに自動車にも搭載されており、各社が研究開発を進める自動運転が一般化すれば、さらに同社の重要度が増していくだろうとした。
今回の戦略的提携によって、ソフトバンクがARMにもたらすメリットについても気になるところだが、それは研究開発に対して集中できる環境づくりのようだ。ARMはソフトバンクから受けた資金的な援助によって、経営に対する不安がなくなり、将来的にさらに重要性を増すであろうIoT分野の研究に没頭できるようになる。
ソフトバンクの孫社長は、今回の戦略的提携について、自身にとって最も大きな将来に対する賭け(投資)であると話した。
Tsujimura