筆者は作年秋からソニーモバイルのAndroidスマホ「Xperia Z5 Premium」を使いはじめて、間もなく1年が経つ。そろそろこのスマホにも飽きてきた頃だなぁと思いはじめていた頃、アップルが「iPhone 7 Plus」を発売した。同じ5.5インチのXperiaから乗り換えるのにふさわしいモデルなのか、ジェットブラックのiPhone 7 Plusを用意して、話題のカメラ機能を中心に比較してみた。検証の日、都内はあいにくの雨模様だったが、防水になった新しいiPhone 7 Plusの実力をテストするのにはかえって好都合だ。
■iPhone 7とiPhone 7 Plusはどこが違う?
はじめに今回アップルが発表した新しいiPhone 7とiPhone 7 Plusの違いについて、ざっくりと整理しておこう。画面のサイズはiPhone 6/ 6 Plusの頃から変わらない、4.7インチと5.5インチ。サイズの違いによるバッテリーのスタミナ性能が異なっているのも従来モデルの通り。
両者の大きな違いはカメラ機能になる。iPhone 7 Plusには“Plusシリーズ”として初めてデュアルレンズ仕様のカメラユニットが採用されている。デュアルカメラがスマホに乗ること自体は取り立てて珍しいものではないが、安定して高画質な写真や動画が撮れることで人気を集めるiPhoneがデュアルカメラを搭載したことで、改めてデュアルカメラシステムにより撮れるデジタルイメージに脚光が当たるのも頷ける。
デュアルカメラシステムの構成はiPhone 7のものと同じ広角レンズに、加えて2倍の光学ズーム性能を持つ望遠レンズが1基搭載される。それぞれでキャプチャーしたイメージを、ソフトウェアの処理により合成してキレのある写真や動画データを記録する。iPhone 7では最大5倍のデジタルズームが限界だったが、iPhone 7 Plusでは最大10倍までのデジタルズームができるので、遠くからでも被写体にクローズアップできる。動画撮影時には6倍ズーム撮影が可能だ。さらに手前の被写体にフォーカスを合わせて背景にボケ味を加える、デジタル一眼レフカメラで短焦点レンズを使った時のような効果が付けられる「被写界深度エフェクト」も、ソフトウェアのアップデートにより今後の追加を待つ。
そのほかの点でも、光学手ブレ補正がiPhone 7にも乗ってPlusと互角の性能となり、どちらも本体が防水仕様になった。明るいレンズに裏面照射型のCMOSセンサー、いわゆる像面位相差方式によるFocus Pixelsの技術を使ったオートフォーカスなど、スマホに搭載されるカメラとしては申し分のないスペックが揃った格好だ。
■Xperiaの5.5インチモデル「Z5 Premium」との違いは
今回相対するXperia Z5 Premiumは、メインカメラに23MPの裏面照射型CMOSセンサーを搭載。スペックの数値だけで比べるとiPhone 7 Plusの12MPとは大きく異なるが、iPhoneではセンサーの1画素あたりのサイズを大きく取ることで取り込める光量を増やして、明るく低ノイズな写真を撮れるようにしている。コンセプトの違いからくるものだ。レンズの明るさはXperiaがF2.0、iPhoneが広角側F1.8、望遠側F2.8になる。フロントカメラはXperia Z5 Premiumが5.1MPであるのに対して、iPhone 7 Plusは7MP。この差がどう出るか、後ほどまた検証したい。レンズの明るさはXperiaがF2.4、iPhoneがF2.2。
Xperia、iPhoneともに4K動画撮影対応だ。今回はそれぞれの画質も比較してみた。なおXperia Z5 Premiumにはソフトウェア処理による「背景ぼかし」の撮影機能がアプリ化されて乗っている。オートフォーカスは被写体の明暗差を解析して合焦するコントラストAFに、像面位相差AFと組み合わせたハイブリッド方式だ。
Xperiaシリーズに搭載されている「プレミアムおまかせオート」は、いわゆる自動で写真や動画撮影の画質を最適化してくれる機能。Z5の世代からプレミアムおまかせオートを選択した状態で、画質を23MPと8MP、アスペクト比を16対9と4対3からそれぞれ選べるようになったのだが、今回のテストでは8MPの4対3に設定して撮影した。
なお本体がスリープしている状態から、本体側面に独立して付いているカメラシャッターを押すと素速く写真が撮れる「クイック起動」もXperia Z5 Premiumならではの便利機能。だが、シャッターを押してからモニターになるディスプレイの表示がややもたつく感じがするので、筆者はふだんそれほど頻繁に使っていない。
■カメラアプリのUIに表れる、iPhoneとXperiaのコンセプトの違い
まずはiPhone 7 PlusとXperia Z5 Premium、それぞれでカメラアプリを起動してみる。iPhoneの方は相変わらず、これぞ“シンプル・イズ・ザ・ベスト”を追求したスマホのカメラと言わんばかりに、HDRやフラッシュのON/OFF、簡単なエフェクト機能は搭載しているが、あとはシャッターアイコンをタップして写真を撮るだけという、迷わないインターフェース構成だ。
一方でXperia Z5 Premiumはアプリを起動して、スマホを構えた左側に静止画・動画のモード切り替えのほか「M」アイコンを選択すると細かくマニュアルでホワイトバランスやシーンの選択ができるメニューバーが表れる。動画の4K撮影モードはアプリとして別に切り分けられていて、これも左側のメニューからアプリ一覧を選択すると表示される「4Kビデオ」アプリを選択して起動する。一方でiPhoneの場合、カメラを起動して4K撮影を開始する前に、設定から「写真とカメラ」を選択して、「ビデオ撮影」の品質を4K/30fpsにあらかじめ選んでおく一手間が必要だ。
写真撮影時のスマホのホールド感についてはXperia Z5 PremiumもiPhone 7 Plusもほぼ変わらない。Xperiaには独立したカメラシャッターボタンが付いているが、iPhoneもカメラアプリの起動時には側面の音量ボタンがシャッターの代わりになる。本体を片手で構えてタテ位置の写真を撮る際のポジション、ホールド感もほぼ一緒。両方のスマホともに本体が防水仕様だが、雨に濡れると本体が滑りやすい。特にiPhone 7 Plusのジェットブラックは表面の加工がつるつるとしているので、うっかり間違うと手元から滑り落ちる怖さがある。本体の保護だけでなく、グリップ感を高めるためにもケースを装着したい。
■撮影した写真・動画を比較検証する
撮影した写真を比べてみよう。作例については本稿の写真リストからご覧いただきたい。
はじめにトマトの写真を撮ってみた。Xperia Z5 Premiumの方がやや色味があっさりとしている。iPhone 7 Plusは少し実物よりも派手めに写った印象だが、色彩が鮮やかに出せた満足感がある。続いて、やや薄暗いカフェの店内でディナーの皿を撮影。こちらはXperiaの方がやや暗く、トルティーヤの色が若干緑がかって見える。iPhoneの方は少し赤みが強いような気もするが、並べてみると素直に美味しそうに感じてしまう。
ズーム撮影はXperia Z5 Premiumがデジタルズーム8倍まで被写体に寄れるのに対して、iPhone 7 Plusは最大10倍と、コンパクトデジタルカメラのスペックに迫っている。最大望遠撮影時にはノイズの発生が避けがたいのはどちらのスマホも同じだが、iPhoneは一段とズームしていることを考えるとよくノイズを抑えていると思う。
フロントカメラでの自撮りは明らかにiPhone 7 Plusの方が明るく、色合いやディティールがより正確に再現できている。これだけでも買い換える価値は十分にありそうだ。ただ、Xperiaシリーズについてはフロントカメラが一気に強化されたXperia X Performance以降の世代と比べてから、最終的な判断を下した方が良いかもしれない。
夜景を撮影してみる。iPhone 7 Plusで撮った写真は全体に少し暗いような気もするが、Xeria Z5 Premiumは感度が高く写真全体が明るい代わりに粒子が粗く感じられる。明るく撮れている部分は所どころディティールが飛んでしまっている。後からPhotoshopで加工する際にはiPhoneで撮った写真の方が整えやすかった。
4K動画も比較した。画面全体の明るさ、自然な色再現はXperia Z5 Premiumの方が上手に感じる。iPhone 7 Plusも被写体の輪郭がキリッとしてシャープなのだが、コントラスト感が少し暗部に引っ張られがちで、暗いところの階調もつぶれて見える。
■「スマホで写真」が、かんたんなiPhone、マニアックなXperia
5.5インチのXperiaとiPhoneの実力をカメラ機能を中心に比較してみたが、結果をまとめるなら、iPhoneは細かいカメラ機能にこだわらないユーザーでも、手軽にクオリティの高い写真が撮れるスマホだ。かたや、Xperiaは「プレミアムおまかせオート」に設定しておけば大抵のシーンはあれこれ悩まずともきれいに撮れるのだが、よりこだわりたいならマニュアルモードで追い込むこともできるし、カメラアプリによる多彩なエフェクト機能がプリインストールされているものをはじめ充実している。よりマニアックな視点から、スマホで撮る写真のテクニックを磨きたいならXperiaを選ぶ価値がある。
じゃあ、実際にiPhone 7 Plusに買い換えるのかと問われれば、やはりイヤホン端子がなくなってしまったことが発表以来じわじわと心に響いている。ご存知の通り変換アダプターが付いているとは言え、前回iPhone 7の速報でお伝えした通り、これをつないだときの音がいまいち良くないのだ。Xperiaは本体のイヤホン端子出力からでもハイレゾ再生が楽しめるのでなおさらその差が大きく感じてしまう。Xperiaはおサイフケータイ機能も先行して対応ができているわけなので、この辺もiPhoneでApple Payが導入されたら比べてみつつ、最終的に5.5インチのスマホを買い換えるか慎重に判断したい。
協力:アップル・ジャパン
山本 敦