お世辞にもマナーが良いとは言い難い中国の交通事情が、その一角に入った途端に様変わりする。緑の街路樹が気持ちの良い区画で、車線は幅広く、ここを走る車はみな安全運転に努めているように感じられた。道路の両端に高々と掲げられているのは中華人民共和国の国旗、いわゆる“五星紅旗”。ここ広東省・深セン市にあるファーウェイ本社のメインキャンパスで、担当者に事業戦略や次期フラッグシップについて聞いた。
■ファーウェイのスマホ事業戦略とは
インタビューに応じたのは、スマートフォン部門を担当するLi Changzhu氏(Vice President Handset business CBG)。ファーウェイは現在、中国においてNo.1のマーケットシェア(20%前後)を獲得している。日本のSIMフリー市場では4ヶ月連続でNo.1を維持(BCNの調査による)、グローバルでも第3位のシェア(14%)を誇っている。しかし同社の姿勢は貪欲で、Changzhu氏は「まだまだこれから伸ばしていきたい」と意欲的に話した。
「HUAWEI P9」シリーズが日本を含めたグローバル市場で売れ続けている。同シリーズの最大の特徴となっているのが、老舗カメラメーカーのライカ社と共同開発したデュアルカメラだ。開発の背景について、Changzhu氏は「携帯電話による撮影は、まだ発展できる素地があると判断したので開発を進めた。一般消費者だけでなくカメラマンにも好評を得ている」と説明した。今後さらにデュアルカメラの研究を続け、将来的には3Dスキャニング、モデリング、VR、ARなどに応用していきたいと明かした。
「競争力を手にするため、技術のイノベーションと品質の確保が重要」と話す同氏。特に技術の開発に関しては売上の10%以上を研究費に回すなど、グローバルのリソースを総合して取り組んでいるという。いま最も注目している要素技術については「ディスプレイ、カメラ、チップ、外観、センサー、バッテリー、すべてが重要」としたうえで、「すべてを取り扱うのは不可能。例えば、チップはグループのHisilicon社で開発している。他の部品についてもメーカーと協力して、共同で開発していく」とした。また「どんな優れた技術を用いても、ユーザー体験が悪ければ意味がない」とも説明。ファーウェイでは、見た目と手触り、バッテリーの持ち具合、撮影機能、通信の快適さ、音質の5つを“ユーザー体験に影響する項目”として重要視しているという。
■防水ライカレンズの後継機が登場?
iPhone 7、Galaxy S7が防水に対応した。これについてChangzhu氏は「(2013年5月にNTTドコモから発売された)Ascend D2など過去の機種で、すでに防水は実現している」と言及。ただグローバルでは求められるものが異なり、またサイズ、コスト、システム全体の構造といった事情から、最近の機種には防水機能を搭載してこなかったという。同氏は「段々と市場のニーズが高まってきた。そこで今後はハイエンドモデル、フラッグシップモデルに防水機能を導入したいと考えている」と説明した。
ライカとの共同開発は2014年にスタートした。「ライカとファーウェイの2社は同じ目標を持っており、互いに協力する意欲があった」とChangzhu氏。もっとも、100年の歴史をもつライカには厳しい認定基準が用意されており、クリアするためには並々ならぬ努力が必要だったという。そして同時に、良品率を高める必要もあった。「例えば生産した1000個のレンズのうち、良品が2個しかないのでは製品化できない。そこでレンズのモジュールメーカーと協力して、あらかじめ量産のことも考えて開発が進められた」。たくさんの課題を乗り越え、最終的には良品率の高いレンズを設計できたとのこと。同氏は「長い時間をかけて研究した結果、ライカのロゴを使うことが許可された。ライカ社とは長期的な協力関係にある。今後はMateシリーズ、Pシリーズの最新機種に共同開発した技術を搭載していきたい」と明かした。
ところで、Galaxy Note7が搭載するバッテリーが発火した問題が国際的にも問題になっている。これに関連して、スマホの安全性についてコメントを求めると「ファーウェイでは厳しい安全基準に従っている。たくさんのリソースを投入しており、安全性も競争力のひとつになっている」との考え方を示した。
Changzhu氏は、最後に「パートナーと良い関係を維持し、より良いサービスを目指すことで、他社にないユーザー体験を提供していく。そうすれば必然的に市場のシェアは伸びていく。競合他社から勉強することはたくさんあるが、真の競争相手は我々自身。これからも最高のユーザー体験を実現していきたい」と言葉に力を込めた。
協力:ファーウェイ・ジャパン
近藤謙太郎