日本航空と全日空は機内Wi-Fiサービスの提供を行っており、すでに多くの搭乗客の間にその存在が知られ、活用されている。そうした中で、どちらのWi-Fiが快適なのかといった議論も見かける。そこで、実際の両社のサービスを体験し、通信速度計測も行ってみた。
■機内Wi-Fiサービスが当たり前の時代に
国内線の航空機上で使用できるWi-Fiサービスの利用がかなり浸透してきた。日本航空(以下、JAL)は2014年7月から、全日空(以下、ANA)も2016年1月から国内線向け機内Wi-Fiサービスをスタートさせ、搭乗客にインターネット接続サービスやエンターテインメントコンテンツを提供している。
現在、JALは国内主要路線を運航する100席以上のほとんどの航空機で機内Wi-Fiサービスの利用が可能となっている。ANAも同様に主要路線の大型機を中心に配備を進めている。実際にWi-Fi対応機材に搭乗すると、シートポケットにWi-Fiの利用手順を説明したパンフレットが挟み込まれているので、多くの搭乗客に機内Wi-Fiの存在が認知されてきたようだ。
何より、空からの風景などをリアルタイムにSNSに投稿できたり、機上にいてもメールやメッセンジャーでやり取りできる利便性は瞬く間に多くのユーザーに間に浸透した。こうした中で、ネット上ではどちらの航空会社のWi-Fiが快適であるかといった投稿も見かけるようになってきた。そこで、JALとANAの機内Wi-Fiを実際に試し、比較してきた。
■機内Wi-Fiサービスの料金と利用手順
本来、航空機上でのWi-Fi接続サービスは、地上で利用するWi-Fiサービスとは異なり、機体への設備設置や衛星通信サービスの運用などで多額の投資が必要である。このため、世界のどの航空会社を見ても、そのほとんどは有料でのサービス提供となっている。
JALの場合もサービス開始当初は30分400円の従量プランか、搭乗中定額(500~1,200円)になるプランで有償提供を行っていた。のちにJALは15分間無料でWi-Fiを利用できるキャンペーンを展開。これで搭乗客からの好感触をつかんだのか、本年2月からは期間限定で時間制限なくインターネット接続を利用可能なキャンペーンへ拡大。さらに6月20日には期間限定を撤回し、完全無料化を図った。
一方、ANAはいまのところ、40分利用で550円、フライト中使えるフルフライト利用で1050円の2種類の有料サービスとなっており、今のところ無料化の予定はないという。
両航空会社とも、機内Wi-Fi対応機材では全席のシートポケットに利用手順が記されたパンフレットがあり、手順に従って操作すればスマホ等でインターネット接続が可能である。
■JAL国内線のWi-Fi利用手順とスピードチェック
まずはJALのWi-Fiを試してみた。JALの機内Wi-Fiはスマホ、タブレット、PCで利用が可能である。iPhoneでその手順を追ってみたい。設定画面を開き、「機内モード」がONの状態で、「Wi-Fi」をONにする。ネットワークから「gogoinflight」を選択し、インターネットブラウザを開くと機内インターネットのポータル画面になるので、ここで「接続」をタップする。完全無料化されたといってもユーザー登録は必要で、Gogoのアカウントが無ければ登録を行い、すでにアカウントを取得しているユーザーはパスワードを入力して次の画面に進む。簡単なセキュリティ認証をパスすればインターネットに接続される。
JALの機内Wi-Fi接続手順。Wi-Fiネットワークの「gogoinflight」を選択し手順に従って進んでいく
Gogoアカウントを作成、またはログインし簡単な認証を行えば接続完了
さっそく「RRB SPEED TEST」アプリを使って速度計測を行ってみた。航空機のWi-Fiサービスは、衛星経由での通信となり、速度はそれほど期待できないイメージが強いが、メールやブラウジング、SNSの利用程度なら全く不都合を感じない程度の通信速度が確保されている。今回は青森空港から羽田空港に向かう路線で、機材はボーイング737-800(165席)である。搭乗便は満席で、周囲を見渡すとスマホを使っている乗客もそれなりに見かけるぐらいの利用率だった。
速度計測は3回行った。衛星通信経由なのでPING(応答速度)はそれなりの時間を要するが、通信速度は初回下り3.48Mbps/上り0Mbps以下、2回目下り9.96Mbps/上り0.62Mbps、3回目下り3.79Mbps/上り0.46Mbpsと、そこそこのスピードが出た。LTE通信に慣れてしまうと機内Wi-Fiは遅く感じるかもしれないが、不自由と感じるほどでもない。ちなみに動画ストリーミングや大容量ファイルのダウンロードなどは、当初は利用できないともアナウンスされていたが、FacebookやYouTubeでシェアされていた短い動画映像程度なら再生ができた。ただし、限られた通信リソースを他の乗客を共有してサービスを利用するという観点から、機上ではできる限り無用なデータ通信を避けるのが無難だろう(RBB SPEED TESTもそれなりのデータ容量の通信を行うので注意)。
JALの機内Wi-Fi速度チェックの結果
また、機内エンターテインメントも用意されており、Wi-Fi接続したスマホ、タブレット、PCで視聴が可能である。機内エンターテインメント用の動画コンテンツは衛星通信を使わず機内に設置された装置から搭乗客の端末に映像が配信されるのでストレスなく視聴ができる。
■ANA国内線のWi-Fi利用手順とスピードチェック
一方、ANAも同様に、「機内モード」の状態から「Wi-Fi」をONにし、ネットワーク一覧から「ANA-WiFi-Service」を選択。続いてインターネットブラウザを開くと機内インターネットのポータル画面になるので「インターネット接続はこちら」をタップする。料金プランは「40分プラン」(550円)と搭乗中時間制限なく利用できる「フルフライトプラン」(1,050円)から選択する。支払いはクレジットカード以外に、マイルでの決済もできる。
ANAの機内Wi-Fi接続手順。Wi-Fiネットワークの「ANA-WiFi-Service」を選択し手順に従って進んでいく
クレジットカード決済またはANAマイレージクラブにログインし、接続を完了させる
搭乗便は、福岡空港から羽田空港に向かう路線で、機材はボーイング787-8(335席)である。ほぼ満席の状態での計測だった。PINGのレスポンスが悪く、「RBB SPEED TEST」アプリでもタイムアウトのエラーが頻発した。数回のトライで計測できた2回の結果は、下り2.24Mbps/上り0.09Mbpsと下り3.22Mbps/の上り0.20Mbpsだった。
タイムアウトエラーも頻発したが、接続されれば3Gサービス程度の速度は出る
ANAもJALと同様に、Wi-Fi経由で機内エンターテインメントサービスを提供している。JALはストリーミング映像のビデオプログラムのみだが、ANAはそれに加え衛星放送の「ライブテレビ」や電子書籍(雑誌、コミックなど)、オーディオ(J-POP、POPS、クラッシックなど)などの提供も行っており、コンテンツの充実度ではANAに軍配が上がる。
■通信速度は搭乗客の利用状況次第
ネット上では「JALのほうが快適、いやANAだ」というような議論を見かけるが、結局のところ衛星通信経由で航空機に割り当てられた通信帯域を搭乗客で分かち合うことになるので、通信速度は周囲の乗客の利用状況次第という結論だ。速度テストを実施した環境ではどちらの便もほぼ満席の状態であった。また座席数が多い機体ほどWi-Fiを利用する乗客が増えると考えれば、小さい機体の航空機のほうがより快適に使えると言えるのかもしれない。
また、JALは当初有料で提供していた機内Wi-Fiサービスを完全無料に移行させた。段階的に無料サービスを拡大させながら、搭乗客のWi-Fi利用状況を見つつサービスの改善を施していったのであろう。無料でありながらそこそこの通信速度を出しているのは立派である。
いずれにしても、機内でビジネスマンがガリガリと仕事をこなせるような通信環境とはいえないが、SNSで富士山の空撮をシェアする程度の楽しみ方であれば何ら不都合のない環境だ。ちなみに「JAL」アプリには富士山が見える方向が分かる「富士山どっち?」機能もある。
木暮祐一