クラウドファンディングサイトを見ていると、ときおり「冗談だろう?」と思うようなプロダクツを見つけてしまうことがある。そんなプロダクツのいくつかは、ゴールを達成して製造にステージを進めても、技術的な問題などで製品化まで進めないこともあったりする。そんななか、このMATRIX社の「Power Watch」は実際に製品化まで進むことができた。
Power Watchの何がありえないほど凄いのか?というと、これは腕時計なのだが、腕に装着することで体温によって発電し、稼働するというものなのだ。
体温で発電するなんていうことが可能なのか?と疑問に思う従来の常識に捕らわれた人は多いわけだが、「そりゃ欲しい」と思う人も大勢いて、その投資によってこのプロダクツは実現した。その原動力の1つはこの会社の名前だろう。映画「MATRIX」と同じMATRIXという名前なのだ。
映画MATRIXのなかで人間はカプセルのなかに入っていて、その人間発電所は人間の体温で発電しており、ロボットたちが動くための電力を作っているのだ。まさに体温で発電するこの腕時計にふさわしい名前じゃないか!
腕につけるだけで発電するPowerWatch。写真はタフモデルである「PowerWatchX」
■PowerWatchの機能
PowerWatchは液晶ディスプレイ搭載のデジタルウオッチなのだが、その表示はモノクロになっている。この液晶はコントラストが高く、見やすい。実はこの液晶はシャープのIGZOであり、非常に低消費電力になっているという。これがPowerWatchを実現するための省電力テクノロジーの1つなのだ。
ディスプレイは省電力なIGZO
機能もただ時計として最低限のものを持つだけではない。表示としては普通にカレンダー表示などもおこなわれているし、万歩計のように歩いた歩数もカウントすることができる。さらに凄いのは消費カロリーを普通のスマートデバイスよりも的確に測定できるという点だ。
普通のスマートデバイスでは身長、体重などを設定し歩数と組み合わせて消費カロリーを計算することが多いと思うが現実には温度の問題や坂道の問題などもあり、必ずしも的確ではない。これに対して、PowerWatchはその発電機構を利用し、装着者の体温の変化を測定し、より的確にカロリーを算出することができる。
歩いた距離を測定できるだけでなく、消費カロリーを他のデバイスよりも正確に算出できる
睡眠時間も自動的に算出される
デザイン面に目を移すと、そのデザインはイタリア人デザイナーの手によるものとなり、エッジの効いたお洒落なものになっている。カラーはシルバーとブラックの2色が用意され、好みで選択することができる。シルバーはフォーマルな場にもフィットする印象だ。
PowerWatchにはシルバーとブラックモデルがある
エッジの仕上げも見事なイタリアンなお洒落なデザイン
また、バンドはサイズの合った普通の時計のバンドを使うことができるので、自分の好みのバンドに変えることもできる。
バンドは汎用サイズなので、自分好みのものに変えることができる
このPowerWatchの上位機種というか、タフで防水機能も強化されたモデル「PowerWatchX」も用意されており、こちらのバンドはG-SHOCKのようなウレタンになっており、いかにもタフな用途を意図している感じだ。ちなみに現在、一番売れ行きがいいのはこのタフモデルだという。
タフモデルPowerWatchXのバンドはウレタン製
電池を交換する必要がなく、動き続けるタフな時計というのは機能的にはある意味、究極的な存在と言える。同じくタフウオッチであるG-SHOCKもソーラー発電モデルの人気は高いという。
シャワーなどのために腕時計をはずしたらどうなるか?が気になる人がいるかも知れない。PowerWatchは内部にはバッテリを搭載しており、フル充電からなら数ヵ月も稼働することができるという。シャワーのために数時間はずす程度では止まったりしないのだ。
■そのテクノロジーとは?
PowerWatchの発電テクノロジーは温度差を利用して発電をおこなうという。温度差というのは人間の体と、時計の温度との違いになる。外気温によっても発電量は変わってくるわけだ。
ちなみにこの時計を駆動させるだけの電力を発電する技術は簡単に実現したわけではない。この技術には2つの要素がある。発電機構と駆動機構だ。前述のようなIGZOディスプレイが駆動機構側であり、こちらはより低消費電力で駆動できる必要がある。これに対し、発電機構にはより大きな電力が発電できることが求められる。
この両面の技術は日進月歩であり、現在(正確にはクラウドファンディングに出品した時点なわけだが)という時代にちょうど、この2つの技術が腕時計を実現できるレベルに達したのだという。
発電機構にしても、体温からの発電がおこなわれた時点では時計としての機能を実現する(というかプロセッサを駆動する)に足る電力は得られず、初期発電した電力を増幅する機構を持っている。
ちなみにこのPowerWatchで使われている低消費電力プロセッサはアメリカ製のものだそうだ。
■日本語対応もばっちり
PowerWatchはスマートウオッチ的にアプリと連携して動く。また、言語は時計もアプリも多言語対応で日本語にも対応している。
運動量はスマホでも把握できる。日本語にも対応している
■MATRIXの描く未来
MATRIXは最初のプロダクトとしてとりあえず身近な腕時計を作っているが、その基本技術である「温度差を利用した発電」を利用し、さまざまなものを作ることを構想しているという。
左がCEOのAkram Boukai氏。右がCTOのDouglas Tham氏。アクラム氏はアメリカ人、ダグラス氏はシンガポール人だ。今、シンガポールは税金が安いおかげで多くの金持ちが移り住んでいるという
マーケティングのNicole Cifani氏
ちなみに、腕時計にしてもLTE通信機能を搭載するようなものも時間の問題で実現できるという。LTE通信が可能なスマートウオッチが充電もなしに使えたら、それはまさに夢のような話ではないだろうか?現在でも、スマートウオッチの大きな障壁はバッテリ駆動時間や充電の面倒さなのだから。
しかし、MATRIXはそんなものでは止まらない。現在、多くのデバイスは電池で駆動されているわけだが、そんなデバイスのなかでも低消費電力で駆動できるものをMATRIXテクノロジーによって、電池交換不要で駆動させることを考えているという。MATRIXテクノロジーが社会にあるさまざまなインフラの一部を電池交換不要に進化させ、メンテナンスフリーになっていく日も来るかも知れない。もはや、社会全体を変革する可能性を持っているのだ。
「未来は常に想像もできない進化をするものだ。」来日したMATRIX社のメンバーと話をしながら、僕はそう思った。
■アメージングな価格
ちなみに現在、このPowerWatchの価格は$199、PowerWatchXが$249。その機能を考えれば驚くべきリーズナブルな価格であり、メーカーサイトからオンラインで購入できる。
現在のラインアップはこの3機種
現在はPowerWatchXが最大の売れ筋だそうだ。価格差はあまりないのにタフ度はぐっとアップしているおかげだろうか?ちょっと高めのG-SHOCK程度の価格で次世代テクノロジー搭載のミリタリー風ウオッチが買えるのだから、人々が欲しがるのも無理はない。ちなみにPowerWatchXは現在、予約受付中で販売は来年1月だ。
現在、日本国内では未発売で、オンラインショップで購入する必要があるが、来年には日本でも普通の小売り市場で買えるようになる。きっと割高になると思うので、これを読んでいる人は今のうちにオンラインで購入するのがおすすめだ。
一条 真人